1万2,000人超のフォロワーを抱える日本のTwitterインフルエンサー、忠犬さんは、貧困から抜け出す方法をファンに伝授している。それも、家計のやりくりを学んだり、福祉制度に頼ったりするわけではなく、ポイントサービスを使うだけでも可能というのだ。

忠犬さん(「忠実なイヌ」の意味)は、「ポイント錬金術」と呼ばれることもある複雑な技術に長けた、日本のポイント界のトップスターの1人だ。彼が貯めてきたポイントは、月々の電気代から旅行費用、美容院通いに至るまで、あらゆる出費の助けになっているという。「年間100万円(約1万ドル)単位でポイントを活用している人は、日本では他に100人もいないのでは」と、彼はRest of Worldの取材に対し語った。

QRコードを始め、数々の電子決済技術の生誕地であるにも関わらず、日本では今でも現金依存がしぶとく残っている。少額の買い物ならデビットカードや決済アプリより現金を使いたいと考える日本人の割合は、約80%にも上る。忠犬さんが広めているようなポイントサービスは、電子決済企業が消費者の受容を促す方策となっている一方、そのインセンティブによって、ポイ活(「ポイント活動」の略)と呼ばれる、最大限のおトクを目指すサブカルチャーも台頭してきた。

市場情報会社S&P Globalのフィンテック業界アナリストであるセレスト・ゴー氏は「日本の現金依存度を考えると、モバイル決済の浸透のためには消費行動を変える必要がある」と話す。日本の決済サービス会社が、ポイント還元制度に熱心なのはこのためだ。

プライバシー保護のためTwitterユーザー名での引用を条件に取材に応じた忠犬さんは、普段は医師として働いている。ポイントサービスに関心をもったきっかけは、自身の家計の苦境だったという。彼は、コロナ禍の現在も無報酬で日本の大学病院に勤める、何千人もの「無給医」の一人だ。最初は他のポイ活マニアとの情報交換のためにTwitterを始めたが、いつしかその趣味はライフスタイルの一部になっていったと語る。

忠犬さんを始め、日本のSNS上では最近、多くのポイ活有名人が活躍している。毎日コンテンツを制作し、またスポンサード投稿やYouTube広告からさらなる収入を得ているトップスターもいる。

Instagramなどで活動している菊原節子さん(せっこさん)は、「ポイ活にとりつかれた女」を自称する。5歳の息子と暮らすシングルマザーとして、彼女は親世代に向けたコンテンツを投稿している。中でも注目を集めているのが、ポイ活で香港ディズニーランドの年間パスポートをゲットする方法の解説だ。そのアクティブなポイント収集活動は、日本の人気テレビ番組にも取り上げられた。

60万人以上の登録者を抱え、ポイント活用術の丁寧な解説動画を投稿するYouTuberの両学長さんは、最も成功しているポイ活インフルエンサーの1人だ。彼は、Eコマース大手の楽天が運営し、自社のプラットフォーム上での買い物に対して還元を行う「Rポイント」の活用方法を定期的に教えている。動画内にライオンのキャラクターが登場するのが特徴的だ。

Chuken, which means “loyal dog,” calls himself one of Japan’s top-tier point stars.
Twitter

日本のあるシンクタンクが3,000人を対象に行った2018年の調査によれば、ほとんどの日本人が、少なくとも時々はポイントサービスを利用しているという。またポイントに対する考え方として「貯まることが楽しい」と答えた人の割合は37%に上った。忠犬さんは「数学の問題を解いているときや、あるいはゲームやスポーツの感覚で、サービス運営企業の隙をついていくのが面白い」「ポイ活は普通の趣味と違って、やればやるほどお金が貯まる趣味」と話す。

ポイ活人気の背景には、日本の消費者のキャッシュレス技術への忌避感がある。韓国や中国など近隣諸国では急速にデジタル決済が浸透したが、日本では物理的な通貨への執着度が強い、と指摘するのは、リサーチ会社GlobalDataのフィンテック業界アナリスト、アーニー・チョウ氏。中国では2020年初頭時点で、7億人超の消費者が実店舗での支払いにスマホを利用している。その多くはWeChat PayやAlipayなどQRコードの仕組みを用いたものだ。この日本発の技術は、国内の決済の現場ではごく最近まで使われることがなく、むしろ中国人観光客取り込みのために受容が拡大したという経緯もある。

日本の現金主義について、海外のコメンテーターは日本文化に還元して説明しようとすることもあるが、実際はもっと現実的な理由がありそうだ。日本には、高度に発展した銀行インフラのおかげでATMが生活圏のすぐ近くにある一方、東南アジアの多くの国々では、モバイル決済が銀行口座のない人々の代替手段として浸透している、とチョウ氏は言う。軽犯罪発生率の低さも、日本人が現金の詰まった財布を持ち歩くことをためらわない理由だろう。一方、日本のフィンテック業界は不正対応に追われてきた。2019年には、セブンイレブンの日本法人によるモバイル決済サービス、7payの開始直後に50万ドル以上が不正利用されるという事件も起きた。7payは結局、開始から約3ヶ月でサービスを終了した。

決済サービス提供者にとって、還元事業は高コストではあるものの、乗り気でない消費者にサービスを使ってもらうための確かな手段だ。ソーシャルメディア大手のLINEは、メッセージアプリの絶大なシェアにも関わらず、デジタル決済サービスLINE Payの利用率が伸び悩み、ここ数年間はポイント制度に大きく頼ってきた。「ポイント還元は、誰にとっても分かりやすい動機付けの方法」と、LINE Payの広報担当者、上岡真由氏は話す。

同社がLINE Payでの還元キャンペーンを積極的に展開し始めたのは2018年から2019年にかけて。日本政府が「2027年までに決済の40%をキャッシュレス化する」という目標を発表した直後だ(政府目標はその後「2025年まで」に前倒しされた)。過去6ヶ月間のLINE Pay決済量に応じてランクが変わる「LINEポイントクラブ」というシステムも導入した。同社はまた、最大で20%ものポイント還元率を誇る期間限定キャンペーン「Payトク」も実施してきた。

LINEによると、こうしたインセンティブは機能しているという。同社のリサーチ部門が2月に行った調査によれば、過去12ヶ月間に実店舗でモバイル端末での支払いを行ったことがあると答えたスマホ所有者の割合は38%となり、前年の13%から増加した。

LINE Payは日本で他の様々な決済サービスと競合しているが、そのうちの一つがSoftBankとYahoo! Japanの合弁企業が運営するPayPayだ。PayPayは、100億円(9,400万ドル)規模の費用を投じたキャッシュバックキャンペーンの成果により、2019年には登録者数が3ヶ月で1,000万人から2,000万人に倍増したLINEとYahoo! Japanの合併が来春に迫る中、こうしたプロモーション合戦は最終的に両社にとってプラスになりそうだ。

Yuzuhiko posts poikatsu vlogs on Youtube, speaking through a 3D-animated avatar of a brown tabby cat in a samurai helmet.
https://www.youtube.com/channel/UCgIUiYo9N8nmubnLNV6DBzA/

こうした決済サービス競争を、15世紀に始まる日本史上の乱世になぞらえ「キャッシュレス戦国時代」と形容する日本メディアもある。インフルエンサーたちは、競合するキャンペーンの動きに順応しており、その1人でTwitterユーザーのハイジ博士さんは、12の主要決済サービスごとに、直近のおトクなキャンペーン情報を詳細に色分けした比較表の投稿で知られている。彼は「キャッシュレス業界内のしのぎあいが激しくなり、毎日のように目まぐるしく環境が変化していく中で、どれが一番おトクなのか見つけ出すのはすごく楽しい」と話す。

日本南西部の都市、福岡に住む31歳の会社員、ゆずひこさんは、ポイ活情報を自身のYouTubeチャンネルに週3回ほど投稿している(彼はファーストネームのみの引用を条件に語った)。動画では、3Dで生成された茶色いトラネコのアバター姿で、最新のデジタル決済のトレンドを解説する。このようなCGアニメに身を包んだ「バーチャルYouTuber」は日本で人気のジャンルだが、彼は「私は唯一の『キャッシュレスVTuber』」と話す。

ゆずひこさんによると、彼の動画の視聴数は今年、急激に伸びているという。日本政府は2019年10月、(後に延期された)2020年東京五輪までに受容を広めるため、キャッシュレスでの支払いにつき最大5%の還元を補助する「キャッシュレス・消費者還元事業」を開始した。他に、コロナ禍の影響も考えられる。ゆずひこさんは「コロナで収入が減ったり、節約を考え始めた人が増えたことで、既存のポイントサービス活用への関心が高まっているのでは」と話す。

ポイ活ブームがどれほど続くかは定かではない。LINEやPayPayといった企業が新規ユーザー獲得のために提供しているインセンティブは、ある程度の顧客ベースを確立した時点で終息していくかもしれない。忠犬さんは「今はポイ活が旬の時期」と見ているが、「このトレンドが4-5年続くかと言われたら、続かないかもしれないと思っている」と語った。